もくじ
新しい商品やサービスを考えようとしても、競合と似たアイデアばかり出てくる。
そんな経験はありませんか?
最近、そうした悩みへのヒントとして注目されているのが「アート思考」です。
アート思考とは、アーティストが作品をつくるときのように、自分の興味や問いを出発点にして、新しい価値を生み出す考え方です。
よく比べられる「デザイン思考」は、お客様の課題を出発点にします。
一方、アート思考は「自分は何に引っかかるのか」「本当はどうあるべきだと思うのか」から始めます。
大切なのは、正解を探すことではなく、自分なりの問いを持つことです。
今回は、アート思考の意味とデザイン思考との違いから、ビジネスで0から1を生み出すための発想法5つまで、デザイナーの視点でご紹介します。
アート思考とは?ひとことで言うと「自分の問いから始める考え方」
アート思考は、アーティストの考え方や作品づくりの進め方を、ビジネスや日々の仕事に応用しようとするものです。
常識や「こうあるべき」にとらわれず、自分の内側にある興味から問いを立て、自分なりの答えを形にしていきます。
アーティストは「作品」より先に「問い」を持っている
美術館で作品を見ると、完成した絵や彫刻に目が行きます。
でも、その作品の後ろには「なぜこれをつくったのか」という作者の問いや、長い探究の時間があります。
美術教師の末永幸歩さんは著書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)で、アートを植物にたとえています。
興味の「タネ」から探究の「根」が伸び、最後に表現の「花」が咲く。
目に見えるのは花ですが、大部分を占めるのは地面の下の根だ、という考え方です。(参考:リアルサウンド ブック)
ビジネスに置きかえると、花は商品やサービス、根は「なぜそれをつくるのか」という考えの深さです。
花だけをまねしても、根が浅ければすぐに似たものに埋もれてしまいます。
ロジカルシンキングとの違い
ロジカルシンキング(論理的思考)は、問題を分けて整理し、筋道を立てて答えにたどり着く考え方です。
すでに「解くべき問題」が決まっているときに力を発揮します。
アート思考は、その前の段階で役立ちます。
「そもそも何を問題にするのか」「誰も気づいていない問いはないか」を見つけるための考え方です。
どちらが優れているということではありません。
問いを見つけるのがアート思考、見つけた問いを筋道立てて解くのがロジカルシンキング、と考えると整理しやすいです。
アート思考とデザイン思考の違い|出発点と目的で比べる
アート思考とよく並べて語られるのが「デザイン思考」です。
デザイン思考は、使う人をよく観察して共感し、課題を見つけ、試作と検証をくり返して解決策をつくる考え方です。
2つの違いを、出発点と目的で比べてみましょう。
・出発点:デザイン思考は「お客様(使う人)」、アート思考は「自分」
・目的:デザイン思考は「課題を解決すること」、アート思考は「新しい問いや意味を生み出すこと」
・向いている場面:デザイン思考は今ある商品・サービスの改善、アート思考はまだ世の中にないものを考えるとき
・進み方:デザイン思考は一つの解決策に向かってしぼり込む、アート思考は可能性を広げていく
デザイナーはどう使い分けている?順番で考える
デザインの仕事では、この2つを「どちらか」ではなく「順番」で使うことが多いです。
たとえば新しいブランドをつくるときは、まず「この会社は何を大切にしているのか」「本当は何を伝えたいのか」を掘り下げます。
ここは、作り手や経営者の想いを出発点にするアート思考に近い段階です。
そのあとで、「お客様にはどう見えるか」「どうすれば伝わるか」を考え、形を調整していきます。
こちらはデザイン思考の段階です。
最初からお客様の声だけを集めると、どこかで見たような案に落ち着きやすくなります。
反対に、自分の想いだけで進めると、ひとりよがりで伝わらないものになりがちです。
自分の問いで方向を決め、お客様の視点で磨く。
これが、デザイナーが現場で大切にしている判断基準の一つです。
なぜ今、ビジネスでアート思考が注目されているのか
アート思考がビジネスで語られるようになった背景には、いくつかの変化があります。
一つは、先が読みにくい時代になったことです。
市場や技術の変化が速く、過去のデータや成功例をなぞるだけでは、次に何が求められるのかが見えにくくなっています。
二つめは、データやAIで「平均的な正解」が簡単に出せるようになったことです。
誰でも同じ情報から同じ答えにたどり着けるなら、差がつくのは「何を問うか」の部分です。
三つめは、デザインを経営に生かそうとする流れです。
2018年には、経済産業省と特許庁が「デザイン経営」宣言を発表しました。
それ以降、デザインやアートの考え方をビジネスに取り入れる企業が増えているといわれています。(参考:野村総合研究所)
よく知られた例として、ソニーのウォークマンが挙げられます。
創業者の井深大さんの「移動中にもきれいな音でクラシックを聴きたい」という個人的な理想が、出発点になったと紹介されています。(参考:同上)
お客様に聞いて生まれたというより、つくり手の「こうあってほしい」が新しい市場をつくった例です。
中小企業にとっても、これは大事な視点です。
価格や規模では大手にかなわなくても、「なぜうちがこれをやるのか」という問いの深さでは勝負ができます。
0から1を生み出すアート思考の発想法5選
ここからは、アーティストの作品づくりを参考にした、アート思考の発想法を5つご紹介します。
特別な道具はいりません。明日からの企画会議や、ひとりで考える時間に試してみてください。
1.観察する|「見たつもり」をやめる
アーティストは、ものをじっくり見ます。
同じ風景や同じ道具でも、色、形、使われ方、人の動きなど、気づくことがたくさんあります。
ビジネスでも、まずは自社の商品やお店、お客様の様子を、初めて見るつもりで観察してみましょう。
デザイナーが打ち合わせの前に、実際の店舗や商品を手に取って見るのも同じ理由です。
資料だけでは見えない「使われ方のクセ」や「置かれている環境」に、ヒントが隠れています。
観察のコツは、すぐに良い・悪いを判断しないことです。
「なぜこうなっているんだろう」と思うことを、そのまま書き出していきます。
2.違和感をメモする|小さな引っかかりがタネになる
観察していると、「なんだか気になる」「ここは変だな」と感じる瞬間があります。
この小さな違和感が、アート思考のタネになります。
たとえば次のようなことです。
・みんな当たり前に使っているけれど、実は不便だと思っていること
・業界では常識だけど、お客様には伝わっていないこと
・自分が好きなのに、なぜ好きなのかうまく説明できないもの
違和感は、時間がたつと忘れてしまいます。
スマートフォンのメモでも手帳でもよいので、思いついたときに一行で残しておきましょう。
3.問いを立てる|「どうすれば?」の前に「そもそも?」
違和感が集まったら、それを問いの形にします。
ポイントは、「どうすれば売れるか」ではなく、「そもそもこれは何のためにあるのか」と、一段深く問うことです。
たとえば、名刺について考えるとします。
「どうすれば目立つ名刺になるか」は、課題の解決に向かう問いです。
「そもそも、人はなぜ名刺を交換するのか」は、前提そのものを見直すアート思考の問いです。
後者の問いからは、「名刺は情報を渡すものではなく、会話のきっかけをつくるものかもしれない」といった、別の答えが生まれる可能性があります。
問いは、すぐに答えが出なくてかまいません。
良い問いは、考えるほど新しい見方を連れてきてくれます。
4.自分なりの解釈を深める|正解ではなく「自分の答え」を持つ
問いに対して、ほかの人の意見や一般論を調べるのは、そのあとで十分です。
まずは「自分はどう思うか」を言葉にしてみましょう。
自分の経験や価値観、子どものころに好きだったもの、仕事で悔しかったこと。
そうした「自分軸」と結びつけて考えると、ほかの人には出せない答えになっていきます。
ここで役立つのが、言葉にする練習です。
美術館で作品を見て「なぜ心が動いたのか」を説明してみるのも、良いトレーニングになります。
感じたことを言葉にできるようになると、アイデアを人に説明する力も育ちます。
5.形にして人に見せる|スケッチ1枚から始める
アーティストは、考えを作品という形にして世の中に問いかけます。
ビジネスでも、頭の中にあるうちはアイデアはなかなか前に進みません。
いきなり完成品をつくる必要はありません。
手描きのスケッチ、写真や切り抜きを集めたコラージュ、コンセプトを一文にしたメモなど、まずは人に見せられる形にしてみましょう。
形にすると、言葉だけでは伝わらなかったイメージが共有しやすくなります。
見た人の反応から、自分では気づかなかった問いが生まれることもあります。
デザイナーが打ち合わせでラフ(下描き)を早めに見せるのも、このためです。
完成度よりも、「方向が合っているか」を早く確かめることを大切にしています。
アート思考をビジネスに活かすときの注意点
アート思考は、新しい発想を生むのに役立つ一方で、使い方には少しコツがいります。
ひとりよがりにならないようにする
自分の問いから始めるぶん、お客様や市場から離れてしまうことがあります。
アート思考で方向を決めたら、デザイン思考やロジカルシンキングで「本当に届くか」を確かめましょう。
チームで共有できる形にする
アート思考で生まれたアイデアは、本人の中では明確でも、ほかの人には伝わりにくいことがあります。
言葉だけで説明するのではなく、スケッチや写真、短いコンセプト文など、目に見える形にして共有するのがおすすめです。
すぐに成果を求めすぎない
問いを立てたり、自分の解釈を深めたりするには時間がかかります。
1回の会議で答えを出そうとせず、違和感のメモをためる、月に一度問いを持ち寄るなど、続けられる仕組みにするのがよいでしょう。
まとめ|アート思考は「自分の問い」から0から1を生み出す考え方
アート思考とは、自分の興味や違和感から問いを立て、自分なりの答えを形にしていく考え方です。
・デザイン思考は「お客様の課題」から、アート思考は「自分の問い」から始まる
・2つは対立するものではなく、「自分の問いで方向を決め、お客様の視点で磨く」順番で使うと力を発揮する
・発想法は、観察する・違和感をメモする・問いを立てる・自分なりに解釈する・形にして見せる、の5つ
まずは今週、自社の商品やサービスを「初めて見るつもり」で観察し、気になったことを3つメモするところから始めてみてください。
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