具象と抽象の違いとは?アートの表現方法と魅力をわかりやすく解説

もくじ

 

美術館で、何が描かれているのか分からない絵の前に立ったとき。
「これはどう見ればいいんだろう?」と戸惑ったことはありませんか?

絵の説明でよく出てくるのが「具象」と「抽象」という言葉です。
具象と抽象の違いをひと言でいうと、見てすぐに「何か」が分かる形で描くか、形を手放して色や線そのもので伝えるかの違いです。

大切なのは、どちらが上・下ということではなく、「何を残して、何を省くか」の度合いが違うと捉えることです。
この見方ができると、アートの鑑賞がぐっと楽しくなります。
さらに、ロゴやポスターなど、身の回りのデザインの見え方も変わってきます。

今回は、具象と抽象の意味と特徴から、代表的な画家、同じモチーフでの比較、デザインでの抽象表現の活かし方までご紹介します。

 

 

具象と抽象の違いとは?ひと言でいうと「形を残すかどうか」

 

まずは、2つの言葉の意味を整理しておきましょう。

 

具象(ぐしょう)とは

具象とは、人物・風景・静物など、現実にあるものを、見て分かる形で表すことです。

英語では「フィギュラティブ(figurative)」や「リプレゼンテーショナル(representational)」と呼ばれます。

 

りんごを描けば、見た人が「りんごだ」と分かる。

これが具象の基本です。

写真のように細かく描く写実的な絵だけでなく、少しデフォルメ(形を誇張したり省略したりすること)した絵も、何が描かれているか分かれば具象に含まれます。

 

抽象(ちゅうしょう)とは

抽象とは、現実の形にとらわれず、色・線・形・質感そのもので何かを伝える表現です。

英語では「アブストラクト(abstract)」と呼ばれます。

 

現代美術用語辞典では、抽象絵画は大きく2つの傾向に分けられると説明されています(artscape 現代美術用語辞典「ノンフィギュラティヴ」)。

 

・目に見えるものを単純化・変形していき、元の形がほとんど分からなくなったもの

・外の世界のモチーフを使わず、作家の内面にある形や感情を表したもの

 

つまり抽象には、「現実から出発して形を削っていく抽象」と、「最初から形のない世界を描く抽象」の2種類がある、ということです。

 

「具象」は抽象が生まれてから使われるようになった言葉

意外かもしれませんが、昔の絵はほとんどが「何かを描いた絵」でした。

20世紀の初めに抽象絵画が登場したことで、それと区別するために、目に見えるものを描いた絵が「具象絵画」と呼ばれるようになったとされています。

 

また、同じ辞典では、具象・抽象といった言葉は便宜的に使われているもので、厳密に線を引くのは難しいとも書かれています。

具象と抽象は、白か黒かではなく、グラデーションのようにつながっていると考えると分かりやすいです。

 

 

具象と抽象、それぞれの特徴と魅力

 

違いが分かったところで、それぞれの良さを見ていきましょう。

 

具象表現の特徴と魅力

・誰にでも伝わりやすい:描かれているものがすぐに分かるので、見る人を選びません。

・物語や情景を伝えられる:人物の表情、季節、場所など、具体的な場面を共有できます。

・技術の高さが分かりやすい:光の当たり方や質感の描き分けに、作り手の観察力が表れます。

 

具象の魅力は、「同じものを見ているのに、こんなふうに見えるのか」という発見にあります。

見慣れた花や街並みも、作家の目を通すと、光や空気の感じ方まで伝わってきます。

 

抽象表現の特徴と魅力

・見る人によって受け取り方が変わる:答えが一つではないので、自分の感覚で味わえます。

・感情や音、リズムなど、目に見えないものを表せる:形がない分、色や線の勢いがそのまま伝わります。

・画面全体のバランスが主役になる:何を描いたかより、色の組み合わせや配置そのものを楽しめます。

 

抽象の魅力は、「意味を探す」より「感じる」ことができる自由さです。

「何を描いたの?」と考えるより、「この色の組み合わせ、なんだか落ち着く」「この線は勢いがある」と、自分の感覚に正直に見てみるのがおすすめです。

 

鑑賞するときの見方の違い

・具象の絵は、「何が描かれているか」から入り、「どう描かれているか」へ目を移していくと楽しめます。

・抽象の絵は、「色」「線」「形」「余白」の4つに注目し、それぞれからどんな印象を受けるかを言葉にしてみると、ぐっと見やすくなります。

 

 

代表的な画家に見る具象と抽象

 

ここでは、誰もが一度は目にしたことのある画家を、具象から2名、抽象から2名ご紹介します。

作品の情報は、所蔵している美術館の公式サイトをもとにしています。

 

具象の代表①|レオナルド・ダ・ヴィンチ『モナ・リザ』

レオナルド・ダ・ヴィンチは、ルネサンス期のイタリアの画家です。

代表作の『モナ・リザ』は、1503〜1519年ごろにポプラの板に油彩で描かれ、パリのルーヴル美術館に所蔵されています(ルーヴル美術館 コレクション「モナ・リザ」)。

 

人物の表情や手の形、背景の風景まで、見たままに近い形で描かれています。

何が描かれているかがひと目で分かる、具象の代表といえる作品です。

そのうえで、どこを見ても見飽きないのは、光と影の重ね方に作り手の観察力が表れているからです。

 

 

具象の代表②|フェルメール『真珠の耳飾りの少女』

ヨハネス・フェルメールは、17世紀のオランダ・デルフトで活躍した画家です。

『真珠の耳飾りの少女』は1665年ごろの作品で、オランダ・ハーグのマウリッツハイス美術館に所蔵されています(マウリッツハイス美術館「真珠の耳飾りの少女」)。

 

美術館の解説によると、この絵は特定の人物の肖像画ではなく、「トローニー」と呼ばれる想像上の人物を描いた絵です。

実在の誰かではないのに、振り返る少女の表情や、耳飾りに当たる光まで、本当にそこにいるように感じられます。

具象の魅力である「同じものを見ているのに、こんなふうに見えるのか」という発見が、よく分かる作品です。

 

 

抽象の代表①|カンディンスキー「抽象絵画の創始者のひとり」

ワシリー・カンディンスキーは、抽象絵画の創始者のひとりとして知られる画家です。

音楽のように、色と形だけで心の動きを表そうとしました。

「コンポジション(構図)」と名づけられたシリーズが代表作として知られています(国立新美術館 アートコモンズ)。

そのひとつ『コンポジション8』(1923年)は、ニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館に所蔵されています(グッゲンハイム美術館「コンポジション8」)。

 

カンディンスキーの作品は、先ほどの2種類でいうと「最初から形のない世界を描く抽象」に近い表現です。

画面の中で色や線がぶつかり合い、まるで音が鳴っているような印象を受けます。

 

 

抽象の代表②|モンドリアン 風景画から、線と三原色の世界へ

ピート・モンドリアンは、垂直と水平の線、赤・青・黄の三原色で構成された「コンポジション」シリーズで知られる画家です。

ただ、最初から抽象画を描いていたわけではありません。

初期には、オランダの風車や砂丘、教会、花などの風景画を多く描いていました(生誕150年記念 モンドリアン展 純粋な絵画をもとめて|美術手帖)。

 

特に分かりやすいのが「木」をくり返し描いた作品です。

入り組んだ枝が描かれた木の絵が、少しずつ水平と垂直の線の網目へと変わっていきました。

モンドリアンの歩みは、「現実から出発して形を削っていく抽象」の代表例といえます。

晩年の『ブロードウェイ・ブギウギ』(1942〜43年)は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に所蔵されています(MoMA「Broadway Boogie Woogie」)。

 

4人の作品を並べてみると、具象か抽象かは、作家が「何を大切にしたいか」で選ぶ表現の手段だといえます。

 

 

同じモチーフで比べると分かる「形と色の捉え方」の違い

 

具象と抽象の違いは、同じモチーフを少しずつ抽象化していくと、いちばんよく分かります。

ここでは「一本の木」を例に、4つの段階で比べてみましょう。

 

 

1.写実(具象)|見たままを描く

葉の一枚一枚、幹の木目、光の当たり方まで描き込みます。

「どんな木か」が細かく伝わる一方、見る人の想像が入る余地は少なめです。

 

2.デフォルメ(具象)|特徴を残して省く

樹冠を丸く、幹を太くまとめた、絵本のような木です。

細部は省いていますが、ひと目で「木」と分かります。

子ども向けの本やキャラクターなど、親しみやすさが大切な場面で多く使われます。

 

3.半抽象|形は手がかり程度に

円と縦の線、緑の面だけで木を表します。

「木かもしれない」と感じられる程度に形を残し、色と形の組み合わせを楽しむ段階です。

 

4.抽象|色と線だけが残る

木の形はほとんどなくなり、緑と茶色の色面、まっすぐな線だけが画面にあります。

ここでは「木」という意味より、色の配分や線のリズムが主役になります。

 

形と色の捉え方はこう変わる

・形:具象では「そのものらしさ」を表すために使われ、抽象では画面のバランスやリズムをつくる要素になります。

・色:具象では「本物の色」に近づけ、抽象では「感じた色」や「伝えたい気分の色」として選ばれます。

・余白:具象では背景や空間として、抽象では色や線と同じくらい大切な「形のひとつ」として扱われます。

 

デザイナーは、この4段階のどこで止めるかを、いつも考えながら形を作っています。

 

 

デザインにおける抽象表現の活用

 

具象と抽象の考え方は、アートだけのものではありません。

実は、私たちが毎日目にしているデザインの多くは「抽象化」によって作られています。

 

ロゴ・アイコン・ピクトグラム

企業のロゴやスマホのアイコン、駅のピクトグラム(絵文字のような案内表示)は、ものの特徴だけを残して省いた、抽象化の代表例です。

細かく描きすぎると、小さく表示したときにつぶれてしまいます。

逆に省きすぎると、何を表しているのか伝わりません。

 

ロゴの色や形の考え方は、ロゴの色とフォントはどう選ぶ?ブランドイメージを伝えるデザインの考え方でも詳しくご紹介しています。

 

背景グラフィック・パターン

ホームページの背景やパンフレットの表紙に入る、やわらかな曲線や色面のグラフィックも抽象表現です。

具体的な絵がない分、会社や商品の「雰囲気」だけを伝えられるのが強みです。

「信頼感」「あたたかさ」「先進的」といったイメージを、色と形で表します。

 

色が与える印象については、色が人に与える印象とは?Webデザインにおける色の役割と選び方もあわせてご覧ください。

 

デザイナーが「具象」と「抽象」を使い分ける基準

デザインの現場では、次のような考え方で表現を選ぶことが多いです。

 

・具体的なものを正確に伝えたい(商品、店舗、料理など)→ 写真や具象的なイラスト

・すぐに意味を分かってほしい(案内表示、ボタン、アイコン)→ 特徴を残したデフォルメ

・雰囲気や価値観を伝えたい(ブランドの世界観、理念)→ 半抽象〜抽象のグラフィック

・長く使い続けたい(ロゴ、シンボルマーク)→ 流行に左右されにくい、シンプルな抽象化

 

迷ったときは、「見た人に何を受け取ってほしいか」を一文で書いてみるのがおすすめです。

「この商品のおいしさ」なら具象、「この会社のやさしさ」なら抽象が向いていることが多いです。

 

 

抽象化で失敗しやすいポイント

・作り手だけが分かる抽象になっている:意味を込めすぎて、見る人に伝わらないケースです。社内の人以外に見せて、受け取る印象を確かめると安心です。

・流行の形をそのまま取り入れる:一時的にはおしゃれでも、数年で古く見えることがあります。

・色を増やしすぎる:抽象表現は色の印象が強く出るので、色数を絞るほうがまとまりやすいです。

 

形を整える基本は、美大受験の課題でもある「平面構成」と共通しています。

〖保存版〗美大受験の平面構成とは?”見せ方”が整うコツ10選も参考になります。

 

 

まとめ|具象と抽象の違いは「何を残すか」の違い

 

・具象は、現実にあるものを見て分かる形で表す表現です。

・抽象は、形にとらわれず、色・線・形そのもので伝える表現です。

・2つは白か黒かではなく、写実からデフォルメ、半抽象、抽象へとつながるグラデーションです。

・デザインでは、伝えたいことに合わせて「どこまで抽象化するか」を選んでいます。

 

次に美術館や街なかでポスターを見たときは、「これは何を残して、何を省いているのかな?」と考えてみてください。

いつもの景色が、少し違って見えてくるはずです。

 

 

ロゴやブランドの表現にお悩みの方はTEMPRONTにお任せください

 

「会社の想いを、ロゴやグラフィックでどう表せばいいか分からない」

「写真だけでは伝わらない雰囲気を表現したい」

そんなときは、TEMPRONTにご相談ください。

伝えたいことを丁寧にうかがい、具象と抽象のちょうどよいバランスで、ブランディングから各種デザインまでご提案します。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です